アジサイはなぜ習志野の市の花か? 1970年の『広報習志野』を読んでみた

アジサイが習志野市の市花であることは、きっと多くの方がご存じかと思います。では、なぜアジサイが市花として選ばれたのでしょうか?

市のHPには「昭和45年(1970年)に市の木を「アカシア」、市の花を「あじさい」と決めました」とあるのみで、その由来は明らかにされていません。ということで、つだその編集部が独自に調査してみました!

そもそも市花に、由来なんて必要なのか? つだその周辺の”市花”事情

まずは周辺の市町村が、市花をどのように扱っているのかを調べてみました。

習志野市のお隣、船橋市の市花は「ヒマワリ」と「カザグルマ」。まさかのWセンター体制! HPに記載されている選定理由をそのまま引用します。

子どもたちの夢を育む花「ヒマワリ」

広く市民に親しまれており、太陽に向かって咲き、力強く、将来の船橋市の子どもたちに勇気と希望を与える花であることから選ばれました。

https://www.city.funabashi.lg.jp/shisei/shoukai/002/p010195.html

大切に守り育てる花「カザグルマ」

船橋市に自生している貴重種であり、市のシンボルとして、大切に保護し、保存していくべき花であることから選ばれました。

https://www.city.funabashi.lg.jp/shisei/shoukai/002/p010195.html

シンボルとしてのヒマワリと、船橋ならではの花としてのカザグルマといった感じでしょうか。

続いては千葉市。市花は「オオガハス」です。オオガハスは、1951年に同市花見川区で発掘された約2,000年前のハスの実を、植物学者の大賀一郎博士が発芽・開花させ、全国へと普及させたもの。同市のHPにも、以下のように記されています。

千葉市とオオガハス

オオガハスは世界最古という貴重な花であるにもかかわらず、国内外およそ250か所に分根され、各地で見ることができるようになっています。千葉市はそんなオオガハスの「発祥の地」です。

1993年には市の花に制定され 、現在も都市アイデンティティを確立するための重要な地域資源の一つとして、積極的にオオガハスをPRしています。

https://www.city.chiba.jp/oogahasu/index.html?top

これはもうエピソードとしては100点満点ですよね。それにしても 2,000年前の実が発芽するって、改めてすごい話だ。ロマン過ぎる。

さて、どんどんいきましょう。八千代市の市花は「バラ」。バラという花の持つ雰囲気のせいか、HPの文章も、ちょっとテンションが高いような。

市の花「バラ」

バラは「花の女王」と呼ばれ、すばらしい香りを持っています。
市内には、世界的に有名な京成バラ園があり、様々な品種がつくられています。
市制30周年を記念して、市民投票の結果、投票数の一番多かった「バラ」を平成9年1月1日指定しました。

https://www.city.yachiyo.lg.jp/soshiki/2/1015.html

ちなみにバラは、市川市の市花でもあります。

市川市は八千代市よりもさらにアツく「いちかわバラ物語」と題してバラと市の歴史を語っています。詳細は割愛しますが、同市では戦後間もない頃から盛んにバラが育てられてきたようです。(ところで、京成のバラ園は谷津駅にもありますよね。「京成とバラ」というテーマは、じっくり掘り下げてみても面白いかもしれません)。

改めて、じゃあなんで習志野はアジサイなの?

長々と書いてしまいましたが、少なくとも習志野周辺の市は、市花の選定理由をきちんと示していました。よかった、なんとなくで選んでいたわけじゃなかったんだ。でも、市のシンボルなんだから、そりゃそうですよね。

さあ、では習志野市はどうなのでしょうか? 考えていても埒があかないので市役所に電話してみたところ、次のような回答をいただきました。

習志野市の市花は、1970年に市民のみなさんによる投票で決めました。広報誌上でアンケートをとった結果、「アジサイ」「カンナ」「ヒマワリ」「キク」「サルビア」の5つの候補のなかから、最終的にアジサイが選ばれたとのことです。

なるほど〜、投票で決めたのか。でも、どうも腑に落ちないのはなぜだろう。投票で決めてるのは八千代市も同じなのですが、習志野市の場合、そこにストーリーが見えてこないというか……。そこで図書館で、選定までの経緯を詳しく知るために、実際に当時の広報誌を読んでみることにしました。

1970年の『広報習志野』を読んでみた

1970年当時の広報誌を読んでいくと、時代の空気感が少しずつ見えてきました。同年4月15日に発行された『広報習志野 第225号』(以下、号数のみ表記)は、こんな書き出しではじまります。

3月に開かれた昭和45年第1回定例市議会で,各方面から注視される中に『文教住宅都市憲章』が誕生し,『公害防止条例』が制定されました。このことにより’70年代のへき頭昭和45年度は,わたしたちのまち習志野市にとって,住民福祉にてっする新しい時代のスタートの年となりました。

『広報習志野 第225号』

市花の選定も、こうした流れのなかで進んでいきます。同年5月15日発行の『第227号』は、「”ならしの”の緑をみんなで育てよう」という大見出しのもと、「緑化5ヶ年計画(昭和45年→49年)」「まず教育環境を花とみどりに」「毎年6月をさし木運動月間に」といった見出しが一面に並びます。

そしてその中に「8月に”市の木”を選定 伸びゆく習志野の象徴に 市民アンケートで決定」という見出しが見つかりました。

8月に”市の木”を選定 伸びゆく習志野の象徴に 市民アンケートで決定

高い理想をかかげグングン伸びる習志野を象徴する樹を選定し、個性ある街づくりを推進いたします。習志野市の気候風土にあった、いくつかの樹木を専門家に選んでいただき、その中から市民のみなさんのアンケートにより決定いたします。

『広報習志野 第227号』

あらら、”市の木”だけ? と疑問に思いつつ、さらに広報誌をめくっていくと同年7月1日発行の『第230号』にて「みんなで市の木、市の花を選んでください」との募集が。どうやら、これが市役所の方が仰っていたアンケートのようです。

そのなかでは「習志野市の自然条件や品位、樹勢などを考慮した木を五種類」と「美観や栽培のしやすさ、咲く時期などを考慮した花を五種類」選定したとして、以下の計10種類の花木が提示されています。

市の木

①アカシア

②キョウチクトウ

③マテバシイ

④イチョウ

⑤ヤナギ

市の花

①アジサイ

②カンナ

③ヒマワリ

④キク

⑤サルビア

『広報習志野 第230号』より抜粋

その結果、選ばれたのがアカシアとアジサイだったというわけです。

同年9月15日発行の『第235号』には「たくましいアカシアとやさしいアジサイ 緑化計画にとりいれ ”緑のならしの”を」という記事が見受けられます。きっとここでアジサイが選ばれた理由が(後付けにしても)語られているに違いない、と踏んだのですが——。

市の花 アジサイ

アジサイは、つぎつぎに色が変わってゆくのでシチヘンゲ(七変化)という別名があります。一般に『紫陽花』の漢字をあてますが、東海道や伊豆七島の海岸に自生するガクアジサイを母種として改良したもので、中国から渡来したものではありません。(中略)アジサイは、さし木や株分けで容易にふやせます(中略)市では、学校の花だん、公園・地域花だんに植えてまいります。

『広報習志野 第235号』より抜粋

といった具合で、アジサイの特徴や、育てやすさについては書かれているのですが、それをどんなシンボルとして位置づけるかについては記述がありませんでした。残念……!

幻の市花? 津田沼町に群生していた「やまつばき」

当時の習志野市民のみなさんが、どうしてアジサイを選んだのかは、今となっては知るよしもありません。でも、選ばれたからには何かしらの意味づけが必要だったのではないか、と思ってしまったりもします。

とはいえ、今回調べたのは1970年の広報誌のみ。もしかすると、翌年以降でアジサイ(とアカシア)について、何かしらの意味づけが行われていたのかもしれません。その辺りについては、また時間があるときに調べ直してみたいと思います。また『広報習志野』に限らず、習志野とアジサイの関わりについて知っている方がいたら、個人的なエピソードでも構いませんので、ぜひ情報をお寄せください。

さて、最後に『広報習志野』を調べるなかで気になったことをもうひとつだけ。「8月に”市の木”を選定 伸びゆく習志野の象徴に 市民アンケートで決定」という見出しが掲載された『第227号』には、同じ誌面上にこんな記事が載っています。

やまつばきを保存しよう

習志野市がまだ津田沼町といっていた時代、そうです菊田川や堀田川にたくさんのフナやメダカ、エビカニが住んでいたころ、どこでも見ることができたのが濃い緑葉と赤い美しい花を咲かせる”ヤマツバキ”でした。文字どおり群生していたこのヤマツバキも、最近はメッキリ見かけなくなりました。畑や山がなくなり家が建ちすぎたためでしょうか。残念なことです。そこで松や杉と同じようにこのヤマツバキの保存運動をずっと続けていきたいと思います。(以下略)

『広報習志野 第227号』

アジサイをはじめとした5つの候補が提示される以前に、”ヤマツバキ”という失われつつある習志野の花木が名指されています。ところがヤマツバキは、なぜか市花の候補からは漏れています。「美観や栽培のしやすさ、咲く時期などを考慮した」結果なのでしょうか? この辺りについても、植物に詳しい方がいらしゃったら、ぜひお話しを伺ってみたいです。

もしかするとこのアジサイはヤマツバキだったのかもしれない。青いアジサイを見て、真っ赤なヤマツバキを幻視できるようになったことも、今回の調査の収穫かもしれません。

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