旅先で心惹かれる景色に出会ったとき。街を歩いていて気になるヒトやモノを見つけたとき。スマートフォンでさっと写真を撮るのもいいですが、紙とペンを使って自分の目にしたものを描き残せたら、なんだか楽しそうだと思いませんか。
京成津田沼駅周辺で、4月1日から2日にかけて開催される「Urban Sketching Weekend」は、自分自身が見たものを絵として描きとめる“アーバンスケッチ”を体験できるイベントです。
絵なんて描けるかなあ、という方もご安心を。イベントを主催するUrban Sketchers Japanの高田桃子さんは「ふだん絵を描いていない人も大歓迎」だといいます。アーバンスケッチの魅力や、今回のイベントの楽しみ方についてお話しを伺いました。
場所と時間のストーリーを、その現場でスケッチする
アーバンスケッチは、シアトルを拠点に活動するジャーナリスト兼イラストレーターのガブリエル・カンパナリオ氏が中心となって、2007年にアメリカで生まれたカルチャーです。現在は世界の300を超える地域に支部が存在しているといいます。
その主な活動は「自分が見たものを、その物事が起きているその現場でスケッチし、それをSNSなどでシェアすることです」と高田さん。
「とにかく自分がその目で見たものを、その現場で描くことが大原則です。人物デッサンや静物画と違って、描く対象をセッティングすることもしません。街という生活空間のなかで起きているできごとを、自然の流れの中で切り取っていくようなイメージです」
注意すべきなのは〈見たものを描くこと〉は、イコール〈客観的にリアルに描くこと〉ではないということ。
「画風がリアルであるかどうかは、まったく関係なくて。そもそも私たちが描きたいのは“場所と時間のストーリー”なんです。ストーリーだから、そこには描き手の主観が入ってくる。目の前の光景からどういう物語を感じとって、それをどのように絵として仕上げるか。そこが大切なんです」
視覚だけではなく、聴覚や嗅覚、触覚、ときには味覚までもフル動員してストーリーをつかみとる。だからこそ、一枚のスケッチはその場で完成させることが理想だといいます。
「完成までにかける時間は、画材や人によってまちまちです。私はパッと15分くらいで描いてしまうこともあるし、数時間かけることもあります。でも、最近は1時間くらいで仕上げることが多いですね。いずれにしても瞬発力が必要です」
完成したスケッチは、SNSなどを通じてオンラインでシェア。これもアーバンスケッチの重要なルールの一つです。
たとえばInstagramで「#urbansketchers」とハッシュタグをつけて検索してみると、投稿数はなんと176万件以上。今この瞬間も、きっと世界のどこかでペンを走らせているスケッチャーがいるに違いありません。それだけ多くの人を夢中にさせるアーバンスケッチの醍醐味とはどこにあるのでしょう?
「みなさんよく言うのは、アーバンスケッチをするとその場所への理解や愛着が増す、ということです。それはやっぱり観察にもスケッチにも手間がかかるからだと思います。街で絵を描いていると『何をしているの?』と声をかけられることもあって、ときにはそれがきっかけで意外なご縁が生まれることもあります。その土地の人や文化と、より深いところでつながれること。一番の醍醐味は、そこですね」
アーバンスケッチには、失敗なんかない?
アーバンスケッチがどんなものか、なんとなくイメージしてもらえたでしょうか? もしかすると、逆に怖気づいてしまった方もいるかもしれません。これまで絵を描いてこなかった自分にできるわけがない、と。けれど高田さんにしても、専門的に絵を学んだ経験があるわけではないそうです。
「昔から絵を描くのは好きでしたが、誰かに習ったりしたことは一度もなくて。ぜんぜん絵を描かない時期もありました。でも社会人になって仕事にも慣れてきたら、何か趣味がほしくなって。それで改めて絵を描きはじめたんです」
そんなとき、たまたまInstagramで「#urbansketchers」のハッシュタグを発見し、「なんだこれは」と驚いたといいます。
「前からスケッチには興味があったのですが、自分にはできないと決めつけていて。人が周りにいたら集中できなさそうだし、何か失敗しちゃうんじゃないか、と。けれどアーバンスケッチというジャンルがあって、日本にもその支部があるなら、とりあえず一回飛び込んでみるかと思ったんです」
そうして臨んだ初めてのスケッチ会。「やっぱり最初は苦戦しましたね」と高田さんは振り返ります。
「ただ他の参加者の方のスケッチを見ていると、いろいろと気がつくこともありました。私はグチャグチャ描いてしまっていたけど、ココは一塗りで済ませちゃえばいいんだ、とか。そういう発見があると、自分でもそれを試したくなるじゃないですか。じゃあもう一回という感じで、いつのまにかアーバンスケッチにハマっていました」
継続して取り組むなかで、ほかにも気がついたことがあったといいます。それは「一枚一枚のスケッチが上手く描けたかどうかは、それほど重要ではない」ということ。
「そもそもアーバンスケッチは、どんな画材を使ってもいいし、画風やスタイル、レベルも人それぞれ。だから、どれくらい上手く描けたかっていうのは、みんなあまり気にしないんです。すごく上手い人の作品でも、よく見ると正確ではない線が入っていたりしますしね。現場で一枚の作品を仕上げるには、そうやって割り切ることも大切なんです。無理に整合性を求めなくていいというか『ちょっとくらいの失敗はどうでもいいや』という感覚で、とにかくコンスタントに描き続けることが上達の近道だと思います」
そう聞くと、ちょっと自分にもできそうな気がしてきませんか?
特に今回のUrban Sketching Weekendは、さまざまなレベルの方が集まるため、初心者でも気兼ねなく参加できるとのこと。ただ残念なことにインストラクターによるワークショップは既にチケットが売り切れ。 しかし、デモンストレーション(以下、デモ)のチケットはまだ残りがあるそうです。そして今回のデモは、ただのデモじゃあないんです。
「4月1日の10時から開催されるベン・ルックのデモは、スケッチャー同士が飲みながら交流を深める『Drink&Draw』というセッションとセットになっています。会場であるLonghornさんの店内で、ドリンクを楽しみながら自由にスケッチしていただけたらと思います。
同じく1日の14時30分からはじまるロブ・スケッチャーマンのデモでも質疑応答の時間を設けていますし、翌2日10時からのケーシー・トリウミによるデモでは参加者がスケッチする時間も設ける予定です。
さらに2日14時30分からは、スケッチウォークというセッションもあります。こちらは京成津田沼駅周辺を自由に歩き回りながら個々にスケッチしようというものなので、がっつりスケッチしたいという方にもおすすめです」
持ち物は「紙と描くものさえあれば何でも」とのこと。もちろんデモは、見るだけの参加もOKです。
詳細についてはUrban Sketchers Japanの公式サイトをご確認ください。ちなみにチケットのオンライン販売は既に終了していますのでご注意を!残席のあるものについては現地・現金支払のみで購入できるとのことですので、メール(uskjapanevent@gmail.com)にて問合せてみてください。
たまたま津田沼? そこには必然と偶然があって
さて、イベント紹介を済ませてしまったので、普通だとここで記事は終わりなのですが、どうしても高田さんにお聞きしたいことがありました。それはなぜ京成津田沼で、ということです。聞けば今回のイベントはUrban Sketchers Japanとして過去最大規模のものだといいます。だとしたら、やっぱりなぜ京成津田沼で?
「理由の一つは、香港からスケッチャーを招いているからです。彼らはちょくちょく日本にやってきてスケッチをしていますが、訪れるのは京都や浅草といった観光地がほとんど。私はもうちょっとローカルでリアルな『地味かもしれないけれどよく見ると面白いところもあるぞ』という街で、彼らが何を描くのか見てみたかったんです」
たしかにそれなら京成津田沼はぴったりです。地味だけど面白い。ローカルでリアル。大納得!
「あとはやっぱりシンプルに、習志野が私の地元だからです。自分が責任者として何か大きなイベントをやろうとなったときに、下手に都内でやるよりも、こっちに持ってきちゃった方が面白いかも、と思ったんです。でもコロナ禍以前だったら、そうは考えなかったかもしれません」
それもそのはずで、Urban Sketchers Japanが活動拠点とするのは東京。高田さんも、以前はスケッチためにしばしば都内に赴いていたといいます。「そもそも地元にあまり関心がなかった」とも。ところがコロナ禍による行動制限に伴い、なかば仕方なく習志野でアーバンスケッチをはじめたそうです。
「そうしたら意外な発見があって。ここには桜並木があって、こっちにはなんか面白そうな坂があるぞ、とか。ここのベンチは絵を描くのに良さそうだな、とか。いろいろ気がつくんですよ」
アーバンスケッチがきっかけで、予期せぬ出会いも生まれました。
「プラッツ習志野のそばに、『林檎の木』というギャラリーがありますよね。あそこのテラス席に座っているときに、向かいのテーブルに座っている方たちの雰囲気が素敵で、その様子をスケッチしていたんです。そうしたら『何をしてるんですか?』と声をかけてくれて。それが『フューチャーセンターならしの』のスタッフさんたちで、そこから地域で活動されている方々とつながるようになりました。ほんとうにたまたまなのですが、こういうのもアーバンスケッチならではだなと思います」
「Urban Sketching Weekend Skills Series, Tsudanuma」
主催:Urban Sketchers Japan
開催日:2023年4月1日・2日
開催場所:京成津田沼駅周辺(千葉県習志野市)複数会場
公式Webサイト:https://urbansketchers-japan.blogspot.com/
問合せ先:uskjapanevent@gmail.com